Yakumoの日記

Track Making / DJ | Love Sampling, Frenchcore/Hardtek, Jaycore, Funkot etc...

ぼっちでもDubtekとかいう最高の駄作

 この記事は2022/12/24にLost Frog Productions "ぶーと・こんぷれっくす!"にてリリースさせていただいた拙作"ぼっちでもDubtek"に関して、制作に至った経緯や曲に込めた思いなどを書いた記事になります。

 

曲のリンクはこちら↓↓↓

soundcloud.com

 

 

Ⅰ. Yakumo - ぼっちでもDubtek

 拙作"ぼっちでもDubtek"は2022/12/24*1にネットレーベルLost Frog Productions様より、"ぶーと・こんぷれっくす!"にてリリースされた。クリスマスイブに何やってんだ。本コンピレーションはアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』に関するbootleg*2を集めた作品となっており、総勢40曲が収録されている。もちろん、自分が提出した本楽曲も原曲が存在している。「いやいや、『ぼっち・ざ・ろっく!』と何も関係ない曲じゃん!」と思われた方が大半だと思うので、本記事で詳しく語りたいと思う。ちなみにBPMは200で、原曲のちょうど1.25倍になっている。ジャンルはその名の通りDubtekというHardtekのサブジャンルとなっており、これについても後で詳しく言及する。

 リリースしてからは自分で思っていた以上に反響をいただけていて、本記事を作成している2023年5月現在でsoundcloudの再生回数は2,700回となっており、自分のアカウントで2番目に多く再生されている。また複数のDJイベントで本楽曲が流れたという事実を確認しており、なんとあのclub asiaのサブフロアでも流れたらしい。みなさま本当にありがとうございます。

 

和解せよさんのこのセット、"全部"をやっててすごい。

 

Ⅱ. 制作開始に至るまで

 『ぼっち・ざ・ろっく!』は、間違いなく2022年覇権アニメだったと思う。普段アニメをリアタイ視聴することのない自分も次回までの7日間がとても待ち遠しかったし、最終的にはAbemaの最速配信に屈して無料登録期間を使いつぶしてしまった。

 本楽曲の制作を開始したのは確か11月の中旬辺りで、本編は4~5話ぐらいまで放送されていた記憶がある。その後2~3週間ほどで完成した。レーベルからコンピレーション楽曲の募集告知が出る前だったので、まさに棚からぼた餅という感じだった。自分は当時からずっと4話が一番好きな回で、1~4話までを幾度となくリピートしていた。このタイミングで作品に対する何らかのアウトプットを起こしたい…と思いDAWを立ち上げた。なので楽曲の中でサンプリングされているセリフも全て4話までのものになっている(はず)。

 ぼっち・ざ・ろっく!が好きすぎて、江ノ島に伊地知 虹夏風コーデで聖地巡礼をしたりした。

 

Ⅲ. 楽曲のコンセプト

 4話が至高だと言い張る自分としては、どうしても『ぼっち・ざ・ろっく!』という作品におけるギャグ・日常パートに焦点を当てた楽曲が作りたかった。なぜなら、自分がこのアニメで一番感動したのは、青春モノらしい熱血さでも、彼女たちの熱い演奏でも、きらら特有の百合要素でもなく、主人公後藤ひとりを通して描かれるえげつないリアルさのコミュ障陰キャあるあるだったから。自分は現在進行形で現実が壊滅しているので、彼女の一挙手一投足に共感してしまった。ときには絶対に思い出したくない過去すら掘り起こされてしまった。助けてくれ、苦しい。

 そういうわけで、まずは作中2話、4話のぼっちちゃんが勝手に悪い妄想をして発狂してしまう部分をサンプリングすることを決めた。*3この時点で、作品の主題歌やエンディングを原曲にして制作することはコンセプトの雰囲気に合わないなと思った。(というか最初からその気がなかったのだが。)本楽曲の収録を許してくださったLost Frogさん、本当にありがとうございます。

 今回使用した原曲とのシナジーは、なんか突然思いついた。リンクを踏んでそのままPVを観ていただけるとわかるのだが、まじでオタクの悪いとこ全部出ちゃってて最高なんですよこれ。こういう何かを小馬鹿にしたような音楽のことを自分は勝手に煽リズムって呼んでます。そう言えばなんか聞こえよくないですか。もちろんこの楽曲はただそれだけじゃなくて、「俺みたいなボカロ好き陰キャオタクでも、カッコいいトラップやってやるぜ」みたいなテーマだと思うのだが、ぼっちでもDubtekはそれを早回しして、そこからさらにキックとアニメのセリフを乗せて、"こっち側"の音楽に引き戻している。なんて最悪なんだ。

※原曲のPVです。

 いつだったか、「ぼっち・ざ・ろっく!観たけど、本当の陰キャはロックなんて聴かねーから」みたいなツイートを見て、まあ確かにそうかもな…とか思ったので、「漏れが本当の陰キャ音楽ってやつを見せてやんよ…(ニチャア)」みたいなコンセプトで楽曲を作っていった。キモい。念のため申し上げておくと、別にロックや他のジャンルを攻撃したいわけでは全くありません。僕自身、最近はいろいろなジャンルを聴いているので、原曲とアニメの表現したい部分を踏襲した結果こうなったに過ぎません。ほんとだよ!

 ちなみにタイトルは原曲の歌詞のパロディになっている。これもすぐ思いついてこれしかない!って思った。

 

Ⅳ. ベースドロップの真相

 以上のコンセプトを踏まえて、ここからは本楽曲の具体的な内容について語っていく。

 まず2回あるDubtekドロップについて。DTMをある程度やったことのある人なら察しがついた方もいるかもしれないが、これは全てspliceの特定のサンプルパックをそのまま早回しして切り貼りしただけである。もう少し具体的に言うと、1st dropはVirtual Riotのベースループを、2nd dropはChime & Ace Auraのベースループをそのままキックベースに乗せただけで、加工も何もしていない。*4

 

こんな感じにサンプルをひたすら並べて切り貼りしたあとにフリーズしている。
一応技術的なことを言うと、"中央で鳴らす音"と"左右に広がりのある音"で分けて処理をして動きを出している。効果のほどは不明。

 これはもちろん狙ってやっている行為で、DTMerからしたら超ド定番で聴き覚えのあるサンプルたちが、あたかもいい感じのベースドロップ作りましたwみたいな体で高速で羅列されている。これはsoundcloudのタグにも書いてある通り「本物の陰キャはロックは聴かないしDubstepとかいうパリピEDMも聴かないんすわ^^(諸説あり)」という思想を含んだ煽リズムに他ならない。なんて最悪なんだ…。soundcloudの深淵で謎音楽(謎音楽の一例)を掘りまくった悪影響成果が出てしまった。

 また、妙に好評をいただいているガバ地帯(2:10~)は、ぼっちちゃんの不器用な部分をうまく表現できた気がして自分でも割と気に入っている。前に「一瞬だけアムステルダムに飛ばされて8小節で正気に戻るの面白いね」って言われた。個人的にはその後のねっとりthink breakが陰キャっぽいダウナーな感じを出してて好きです。

自分は普段から曲作りの際に参考にする楽曲をDAWに貼っているのだが、今回はあまりにも多すぎるだろ…。とプロジェクトファイルを改めて確認して思った。

 

Ⅴ. 文脈の受け皿としてのHardtek

 ここからはちょっと話を変えて、「なぜこの曲はHardtekになったのか」というやや哲学めいた問いを考えていく。

 まず大前提として、自分はsanpling music(曖昧なジャンル1)とかjaycore(曖昧なジャンル2)とかの辺りで頑張っていきたいという気持ちがあったから、必然的にジャンルの方向性はそちらに寄っていく。それはそうとしても、振り返ってみれば本楽曲は「よし、いまからいい感じのHardtek作るぞ」という動機があったわけではないことに気が付いた。じゃあなんでぼっちでもDubtekはHardtekとして作られたんだ…と自分でもよくわからなくなってしまったので、本記事を書くにあたっていろいろ考えた結果、自分は自分の望む文脈で消費されるためにHardtekという体裁を取ったという表現が一番しっくりくると思った。今回の場合なら、jaycoreというシーンの中で消費されてほしい、という気持ちがあったので、そのなかで扱われている音楽で一番マッチするHardtekを必然的に選択した。ということになる。だから、例えば今のHardtekの位置がそのままドラムンベースに置き換わっていたとしたら、ぼっちでもD'n'Bになっていた可能性もある。

 自分の場合、まず"表現したいこと"(今回の場合はⅢで言及した内容)みたいな抽象的な次元でアイデアが浮かんで、それを適切で具体的なテクスト(今回の場合はHardtek)に逐一落とし込むという制作プロセスになっていることにようやく気付いた。どおりで、「いい感じのキックができたからこれで1曲作るぞ!」と意気込んでも何も浮かんでこないわけである。

 そういう意味で、jaycoreのような広くて曖昧な定義で済んでいるジャンルは凄く活動しやすいということにも気が付いた。自分自身jaycoreは「こういう音が鳴ってたらjaycore」みたいな具体的な次元ではもはや定義不可能だと思っていて、むしろ精神性の問題な気がするので、そこで一貫性が保てていたら(少なくとも自分の音楽は)それでいいと思ってます。今は。

 この動画結構気に入ってる

 

Ⅵ. メタ的サンプリング手法

 最後に、自分のサンプリングという手法に対する態度をある程度言語化させることに成功したので、それも書いておく。

 先に結論を書いておくと、今回のようにアニメのセリフなどをサンプリングする場合、そこには必ず「アニメを見る私」という存在が暗示されている。これはDJ Sharpnel氏やLOLISTYLE GABBERSの3人を筆頭に伝統的に行われてきたアニメ礼賛的なサンプリングとは決定的に異なる。(と、少なくとも自分は思っている。)これを私は「メタ的サンプリング」と勝手に呼ぶことにした。そう言えばなんかかっこよくないですか。

 例えば本楽曲ではぼっちちゃんが「友達と写真なんて撮ったことない…」というセリフがサンプリングされているが、それは陰キャな「アニメを見る私」の代弁、自己投影の引用であり、それは本原曲の採用等の自己中心的な文脈によって裏付けられる。もちろんぼざろは最高だしそれに対するレスポンスや愛情表現も含まれてはいるものの、あくまでも見てほしい主役は「アニメを見る私」というわけだ。それは「作品を道具化している」「不健全だ」と言われてもおかしくないと思う。でも、私が今音楽でやりたいのってこういうことなんです。

 これが如実に出ているのが先日のM3にてリリースした"平成エクスプローラー EP"で、「平成のインターネットで流行った楽曲をリミックスしたからみんなで懐かしみながら聴こうぜ」みたいなつもりはなくて、あえてコンセプトを言語化するならば「大学生になった俺が団地の公園で本気のメントスコーラやる」みたいな感じ。メントスコーラで面白がってほしいわけじゃなくて、あくまで見てほしいのは「大学生にもなって本気でメントスコーラやってる俺」である。それはハッキリ言ってキモいしダサいし、少なくともノスタルジックないわゆる"エモい"とは遠くかけ離れたニュアンスが出ていると思う。

yakumo.bandcamp.com

 このバイブスは結構、ダリアコア*5の一部楽曲と近いものがあると思う。例えばsteejのこの曲、サムネイルにしても、ゲームの効果音のサンプリングにしても、懐かしいポケモンダイパを称賛したいわけじゃなくて、「無邪気にポケモンやってた昔の俺」みたいなメタ的表現だと思っている。ダリアコアはそこに音割れという要素が加わり、より破壊的な感情を含んでいる気がするが。2月に投稿した記事で書いた「こういうjaycoreが増えればいいな」というのはこういうことなんだと思います。多分。

soundcloud.com

 

Ⅶ. 総評:最高の駄作

 以上のように、自分はかなり理詰めで音楽をやっているということが分かったかと思います。今回は、自分も自分で気付けていなかった部分をそれなりに上手く言語化できてすっきりしました。

 改めてなぜぼっちでもDubtekが自分の中ではそれなりにウケた曲になったのかを考えると、煽りの精神とか、メタ的なサンプリングが今までになかった新規性を生んだのかなと思いました。単に音としておもろいだけの可能性もあるけど。(というか多分そう)

 それらを踏まえたうえで、かなり非道徳な負の感情をむき出しにして作ってしまったこの曲は自分の中で愛憎のあるものになってしまいました。なのでこれを自分史上「最高の駄作」と評して本記事を締めくくりたいと思います。

 

 ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。今後も気が向いたらいろいろ書いていこうと思います。これからもYakumoは頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

*1:ちょうど原作の最終回に合わせてリリースされた。

*2:一般に非公式のリミックスや、もとからある楽曲に音を付け足した楽曲のことを指す。

*3:特に、2話のバイトがうまくいかない妄想をする部分は、自分がコンビニでアルバイトをしているということも相まって本当に刺さってしまった。

*4:この曲のせいで「ばちゃーらいつもありがとう!」とかいう謎ミームが今も身内で流行り続けている。

*5:ダリアコアは定義が狭義なものと広義なものが混在しており混乱してしまうので、本投稿では、leroyの投稿した元祖dariacore、そこから影響を受けて生まれた(と考えられる)hyperflipやその他全てのムーヴメントを便宜上"ダリアコア"と呼ばせていただくことにする。